ライブ配信の音作りについて
金井:配信の音って、これまでのライブハウスの音作りと違うじゃないですか。
その辺はどうやって研究されたんでしょうか。
佐藤:最初は、無観客だったんで、ヘッドホンを聴いてレコーディングのように
音作りをしました。だから、外に出す音は気にせずにできたんですが、お客さん
を入れてやるようになってからは工夫が必要になりましたね。
例えばスネアドラムの音がでかいドラマーの場合、配信の回線の方にはスネアの
音を送るけど、PAスピーカーからは出さないみたいな。メインスピーカーのメイ
ンのボリュームを絞ればいいんだとか、今はそうやって感覚でバランスをとって
やっていますね。もう100回以上配信していますから。
金井:マイクから少しでも離れちゃうと、声が配信に乗らないっていう問題もあ
りますよね。
佐藤:最初は確かにそういう問題がありましたが、今はMCの時だけPAで音量を
上げるとか、パソコンの方で上げるとかしてある程度乗せられるようになりまし
た。ドラムのオーバートップのマイクもあるし。今はマイクから離れて喋ってい
ても、聴こうと思えば聴き取れます。
金井:きっと最初のころよりも意識されて音の調整をされているんでしょうね。
さすがです。
賀山さんは音作りについてはどんな研究をされましたか。
賀山:配信に乗るラインの音(ギターアンプなど個々の音をマイク取りしたも
の)と、ライブ会場で直接聴く音って、全然違うわけじゃないですか。配信の音
を聴いたミュージシャンの方から、ラインの音だけじゃクリアーすぎるって言わ
れたんですよ。そこで、客席にもマイクを置いて、エアーというんですが、その
ライブ感のある音をラインの音にどんどん足していって、その割合が増えていっ
たんです。
金井:ああわかる。うちもです。
賀山:配信の音のバランスについては、休業しているころ、一度いい経験をさせ
てもらって。
中止になったあるライブの日、せっかくなのでDVDの撮影で使わせて欲しいとい
う話があって、私が音作りを担当することになったんです。一曲録っては聴き、
録っては聴きというのを延々と繰り返して、バランスとか音量とか音質とか、例
えばキーボードのLRだったらもう思い切って振ったほうがいいんだとか、音作り
のことを現場で色々指示されてやったんです。ラインのミックスについては、こ
の時の経験が配信の音作りのヒントになって、今、生かされていますね。エアー
については……_最近はクリアーな音の配信の方がいいのかなって思い始めてい
ます。
金井:うーん。そうなんですかね。やっぱり。
佐藤:うちはもうエアーを足すのはやめたんですよ。
金井:えっ。
佐藤:エアーのために2チャンネル使うなら、他のところにマイクを立てたいっ
ていう……_。
金井:なるほど。
賀山:うちはエアーは別のアナログミキサー卓に入れて、配信のラインミックス
と混ぜて出しています。つまり、デジタルのミキサー卓の先にもう一台アナログ
のミキサー卓をかませて、その音を配信に送っています。真偽の程は、実はわか
らないんですが、そう書いてあったんで笑。
金井:みなさん色々創意工夫をされて……_笑。
郡司:確かにジロキチも、最初はデジタルのミキサー卓を使っていたんですが、
賀山さんのおっしゃたように、アナログのミキサー卓でバランスをとった音をデ
ジタルの卓に送ってから配信した方が、音が全然良かったんですよ。
金井:結局、この対談を読んでいただいている方も、ご自分で試行錯誤するしか
ないっていう感じでしょうか。
賀山:元々あった機材とか環境が違いますからね。僕がルースターやジロキチに
行ってそのシステムを使って配信をやれって言われてもできませんから。
佐藤:できたとしても……例えば_ギタリストがみんな、同じ楽器を使っている
のに音色が違うように、僕が音楽室DXに行ってPAをやったら僕の音になっちゃ
うでしょうね。あとは、やっぱり慣れた機材が良いっていうのもあります。使い
やすいですから。ジロキチが今更OBSを使おうと思わないでしょ?
金井:はい、難しいですし笑。
佐藤:ある程度システムを構築して、慣れちゃったら、もうそれでいいんじゃな
いかな。
話が戻りますが、僕がエアーの音を出さないのは、ヘッドホンで聴いている音が
生々しくないからなんです。たとえばレコードって、ラインのミックスだけで、
ちゃんと迫力のある生々しい音になっているじゃないですか。同じような感じで
作って配信に送ればいいわけで。
僕はフィルスペクターとか好きなんです。山下達郎とか大滝詠一とかもきっとそ
うなんだと思いますけど、そういう音作りがが好きという感じかなぁ。
賀山:面白いですね、配信でもそれぞれの店の個性が反映されるっていう……。
金井:そうなんですよね。うちも、ミュージシャンによく「配信もジロキチの音
なんだよね」って言われます。
賀山:ジロキチって、iPhoneだけで撮影しているじゃないですか。あの色味がま
さにジロキチなんですよ。失礼かもしれませんが、4Kのカメラで撮ったら、あ
のジロキチの雰囲気は出ないんじゃないかって笑。
佐藤:じゃあ、ジロキチは中国製の2万円の4Kで撮れば? 笑。
一同:笑
賀山:配信の場合、やっぱり色味の問題がありますよね。LEDって暗いんです
よ。あるミュージシャンに言われたんですが、照明のせいで、面白いこと言って
いるのに、暗いというか、冷たい感じに映ってしまっているから、面白さが伝わ
らないって。
金井:えー笑。
賀山:それでLEDじゃない照明を増やしました。
佐藤:それでその人は面白くなったの?
賀山:まだそれから出演していないんで、面白くなったかどうかはわかりません。
一同:笑
配信のプラットホームについて
金井:荻窪ルースターがツイキャスプレミアを選んだ理由はなんだったんでしょ
うか。
佐藤:一つは権利関係です。ちゃんとJASRACと利用許諾契約を締結しているプ
ラットホームだったということですね。
あとは、ツイキャスプレミア配信は、別のサイトに移動して配信チケットを購入
する必要がなく、ツイキャスのサイトの中で全部完結するんです。
わかりやすかった。販売手数料も5%と安かったことも大きいですしね。
それにやっぱり知名度も利用率も高かったから。聞いたことのない配信のサービ
スっていっぱいあるじゃないですか。まあ、とにかくツイキャスで始めて定着し
ているので、今から他のサイトを利用するってのは……_。
金井:お客さんに登録していただいてやっと慣れてもらったわけですからね_。
佐藤:音楽室DXはツイキャスでやるパターンと、YouTubeでやるパターンと分け
てやっていて、ジロキチはYouTubeで配信してから他のサイトで後売りチケット
を販売するって形ですよね。でもうちは、ツイキャスだけで完結するからわかり
やすいだろうということで。
金井:確かにそうですね。うちはちょっとわかりにくいかもしれません。
賀山:音楽室DXは最初、Youtube、ツイキャス、Streaming+、ZAIKOの4つのサー
ビスが選択肢としてあったんですよ。で、まずは、お客さん的に一番ハードルの
低いと思ったYouTubeを選びました。とりあえず簡単に、多くの人に、幅広く観
てもらうことが先決かなーと思って。音楽室DXが配信を始める宣伝というか、周
知してもらえるように。
ツイキャスの方は最初、ミュージシャン側からの要望で始めました。その人はす
でにツイキャスで個人的に配信をやっていたので、それでそう指定してきたんだ
と思います。
最初始めた頃はYouTubeが8割、ツイキャス2割くらいだったんですが、もう宣伝
も充分かなと思って、今は逆転して、8割がツイキャスプレミア配信になってい
ます。どちらで配信するかはミュージシャンとの話し合いで決めています。
Streaming+、ZAIKOも魅力的だったんですが、ツイキャスは、佐藤さんがおっ
しゃったように、知名度が高いし手数料も一番安い。それに登録してくれている
お客さんもすでにたくさんいるので、それが今も使っている主な理由ですね。
金井:ジロキチはYouTubeしか使ったことないのでわからないのですが、ツイ
キャス特有のトラブルとかってあるんですか?
佐藤:配信チケットが買いにくいってことですね。あとは、たまにチケットを
買ったのに配信が観れないって問い合わせがある。さっき賀山さんが言っていた
ようにFacebookからログインするのか、Twitterからログインするのか、ってこと
なんですけど。まあ、一回解決されれば、次は多分出来るだろうと……_。
金井:その辺は慣れていただくしかなさそうですね。ところでツイキャスは技術
的なトラブルってないんですか?
佐藤:今はほとんどないですね。賀山さんがさっき言ったみたいに、毎回、ハラ
ハラする場面ってのはありますけどね。歯が抜ける夢にうなされるほどではない
です笑。
一同:笑
金井:他には、ミュージシャンが演奏するカバー曲……著作権の問題がありま
すね。
賀山:著作権ももちろんそうですが、有料配信については、アーカイブを残すか
どうかが一番問題です。複製権というものが別にあって、そっちの方が重要です
ね。
佐藤:法人として配信するのか、個人でやるかによって違うということもありま
すから、今から配信を始めようと思っているお店の方々は、その辺りも勉強され
た方がいいと思いますね。
金井:著作権や複製権などについては、複雑に色々あるので、また別の機会を設
けて詳しくお知らせしたいと思います。
今後、配信を考えている方々へのアドバイス
金井:最後に、この対談を読んでくれたカフェとかレストランの店主の方が、お
客さんを入れて、例えば弾き語りライブの有料配信をやりたい、って思ったと
き、何かアドバイスはありますか。
佐藤:まずお客さんを入れてライブをやることになったらJASRACに許諾を得な
ければなりませんね。
まあ、それは置いておいて、とにかく配信をしてみようと思ったら、スマフォだ
けでとりあえずできたりもするので、ユーチューバーの配信のやり方とかを解説
してる動画とか観て研究して、手軽な感じでやってみてもいいかもしれません。
音質や画質にこだわって定期的に配信したいなら、ライブハウスをやればいいわ
けだし。
賀山:佐藤さんがおっしゃるように、手軽に始めるのも全然ありだけど、最近は
お客さんも配信ライブに慣れてきて、目や耳が肥えているというか、色々観てい
るので、やっぱりある程度のクオリティー、音質、画質は求められる気がします
ね。だから続けてやりたいなら初めからある程度の準備、投資が必要かもしれま
せん。
まあ、無料配信なのか、有料なのか、そうならばどのくらいの値段設定なのか、
どういう趣旨の配信なのかによっても求められるクオリティーは変わってくるの
で……予算とかもあるでしょうし。
金井:佐藤さんがおっしゃるようにユーチューバーのやり方を研究するとか、と
りあえずやってみて、うまくいかなかったらきっと自分で調べたりしますもん
ね。この対談を熟読してもらったりとか。
賀山:やると決めたら走り出すしかないというか笑。
金井:あとは……多分最初は、とにかく配信がうまくいくかどうかに気を取ら
れたり、音質やカメラワークなどに凝り出して、つい忘れがちになると思います
が、演奏するミュージシャンの方としっかりコミュニケーションをとった方がい
いですね。
ある女性ピアニストの方が、撮られると思っていた顔の向きの方を念入りにお化
粧して整えたのに、配信のアーカイブを観たら逆側を撮られていてびっくりした
とか笑。鍵盤を上から撮るのはいいけれど、胸元が映ってしまっていて気になっ
たとか。固定カメラで、上半身ばかり映っていて、楽器が映っていなかったの
で、配信を観たけど何をしていたの? って後で聞かれたとか笑。
今後は、ミュージシャンの側にも配信に対する意識を変えてもらう必要もありそ
うですね。
賀山:ミュージシャンに対して、こうしろ、ああしろ、なんてもちろんないです
が、僕らが配信用の音と普段のPAの違いを研究したように、配信においては、ス
テージに立つ人もカメラの向こう側にいる人たちに対する意識を持った方がいい
のかもしれませんね。
金井:それでは長くなってしまいましたが、そろそろ終わりたいと思います。各
店の配信のシステムは、別に簡単な図で掲載しますので、よかったらご参考にな
さってください。
佐藤:無駄な機材を買わずに済みますので笑。
金井:大事ですね笑。それでは皆様、ありがとうございました。
ミュージックスクラムは2020年の7月から定期的に行ってきた配信勉強会の活動から生まれた情報発信サイトです。
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ミュージックスクラムは2021年7月現在、なんの実績もありませんがライブミュージックに携わる人間がこの状況に立ち向かう気を奮い起こすことのに手助けになればと思います。
鬼怒無月